ゲームロード時間とストリーミングを制するストレージ選び Gen4/Gen5 NVMe SSDのリアルな性能差
ゲームロード時間とストリーミングを制するストレージ選び Gen4/Gen5 NVMe SSDのリアルな性能差
最新ゲームを快適にプレイするためのPC構成を考える際、CPUやGPUの選定が最も注目されがちですが、ストレージもまたゲーム体験に不可欠な要素です。特に近年のゲームはデータ容量が大きく、広大なオープンワールドや高精細なテクスチャをリアルタイムに読み込む必要があるため、ストレージの性能がゲームの快適性、特にロード時間やゲームプレイ中のストリーミング性能に大きく影響します。
かつてはゲーム用ストレージとしてHDDが一般的でしたが、SATA接続のSSDが登場し、ロード時間の短縮に革命をもたらしました。そして現在、PCIe接続のNVMe SSDが主流となり、その性能はさらに進化を続けています。本記事では、特に最新世代であるPCIe Gen4およびGen5に対応したNVMe SSDに焦点を当て、それぞれの技術的特徴、ゲームにおける実効性能差、そして高性能ゲーミングPCにおける最適な選び方について深く掘り下げていきます。
ゲームにおけるストレージの役割と性能の重要性
ゲームにおけるストレージの役割は、単にゲーム本体のデータを保存する場所だけではありません。ゲームを起動する際のロード時間、シーン切り替え時の待ち時間、オープンワールドゲームにおけるマップデータの読み込み、高解像度テクスチャのリアルタイムなストリーミングなど、ゲームプレイのあらゆる場面でストレージのデータ読み書き性能が関わってきます。
ストレージ性能が低い場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 長いロード時間: ゲームの起動時やエリア移動時の待ち時間が長くなり、プレイヤーのフラストレーションにつながります。
- スタッタリングやカクつき: ゲーム中に必要なデータ(テクスチャ、モデル、音声など)をリアルタイムで読み込む速度が追いつかず、画面が一時的に停止したりカクついたりする現象です。特にオープンワールドゲームや、高速で移動する場面で顕著になりやすい問題です。
- テクスチャの遅延表示: 高解像度のテクスチャがすぐに読み込まれず、低解像度またはぼやけた状態で表示され、しばらくしてから鮮明になる現象です。没入感を損ないます。
これらの問題を解消し、よりスムーズで快適なゲーム体験を実現するためには、高速なストレージが不可欠です。現在、その最有力候補となるのがNVMe SSDです。
NVMe SSDの技術と進化:Gen4 vs Gen5
NVMe(Non-Volatile Memory Express)は、SSDのために設計された高速インターフェースプロトコルです。従来のSATAがHDD向けに設計されたプロトコルを流用していたのに対し、NVMeはフラッシュメモリの特性を最大限に活かすように最適化されています。PCI Express(PCIe)バスを介して直接CPUと通信することで、SATA SSDと比較して飛躍的に高いシーケンシャル性能(連続したデータの読み書き)とランダム性能(飛び飛びのデータの読み書き)を実現します。
このNVMe SSDは、利用するPCIeの世代によってさらに性能が向上しています。
- PCIe Gen3 x4: 帯域幅は約3.9GB/s。初期のNVMe SSDがこの規格で、SATA SSD(最大約0.6GB/s)から大幅な性能向上を果たしました。多くのゲームにとって十分高速な場合が多いですが、最新のゲームではボトルネックになることもあります。
- PCIe Gen4 x4: 帯域幅は約7.8GB/sと、Gen3の約2倍に拡大しました。これにより、シーケンシャルリード・ライト性能が7000MB/sを超える製品が登場しました。多くのミドルレンジ~ハイエンドPCで採用されており、現在のゲーミングPCの主流となっています。ゲームのロード時間短縮やオープンワールドにおけるデータ読み込み性能向上に貢献します。
- PCIe Gen5 x4: 帯域幅は約15.6GB/sと、Gen4の約2倍にまで拡大しました。これにより、シーケンシャルリード性能が10000MB/sどころか12000MB/sや14000MB/sを超える製品が登場し始めています。理論上の性能は圧倒的ですが、実使用における性能、特にゲームへの影響についてはまだ発展途上の部分もあります。
Gen4 NVMe SSDのゲームにおけるメリットと実力
現在のゲーミングPC市場において、Gen4 NVMe SSDは性能と価格のバランスに優れた主流の選択肢と言えます。Gen3 SSDと比較して、ゲームのロード時間は体感できるレベルで短縮される場合が多く、特にアセット容量の大きなゲームや、ロード頻度が高いゲームでその恩恵を感じられます。
また、多くのオープンワールドゲームでは、広大なマップデータを移動に合わせて常に読み込んでいます。Gen4 SSDの高速なランダムリード性能は、こうしたゲームプレイ中のデータストリーミング性能向上に寄与し、スタッタリングの抑制やテクスチャのスムーズな表示に貢献します。
既存の多くのゲームは、Gen3 SSDの速度を前提に開発されているか、あるいはそれほどストレージ速度に依存しない設計になっているものも少なくありません。しかし、最新のAAAタイトルでは、高精細なアセットを多用するため、Gen4 SSDの性能が快適性のために推奨される傾向にあります。
Gen5 NVMe SSD:圧倒的な理論性能とゲームへの影響、そして課題
PCIe Gen5対応NVMe SSDは、理論上の最大速度においてGen4 SSDを遥かに凌駕します。シーケンシャルリード性能は10GB/sを超え、中には14GB/sに迫る製品も登場しています。これは、将来的にゲームにおけるデータ処理の方法が大きく変わる可能性を示唆しています。
Microsoftが開発を主導する「DirectStorage」のようなAPIは、SSDからGPUへデータを直接転送することで、CPUの負荷を減らしつつゲームアセットの読み込み速度を劇的に向上させることを目指しています。この技術は、Gen4 SSDでも効果を発揮しますが、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、Gen5のようなさらに広帯域なSSDが有利になると考えられています。DirectStorage対応ゲームが増えれば、Gen5 SSDの優位性がより明確になる可能性があります。
しかし、現時点では、DirectStorageに対応したゲームはまだ少なく、多くのゲームにおいてGen5 SSDの理論性能がそのままゲームのフレームレート向上やロード時間の大幅な短縮に直結するわけではありません。ゲームのボトルネックがGPUやCPUにある場合、ストレージだけを高速化しても体感できる変化は小さいことがあります。
また、Gen5 SSDは非常に高速なデータを扱うため、発熱が大きくなる傾向があります。高性能なコントローラーやNANDフラッシュメモリは動作時に熱を発生させますが、Gen5 SSDはその速度ゆえに発熱も増大します。適切な冷却が行われない場合、温度上昇によって性能が抑制される「サーマルスロットリング」が発生し、せっかくの高速性が活かせなくなる可能性があります。そのため、多くのGen5 SSD製品には大型のヒートシンクが搭載されており、マザーボード側にも高性能なM.2ヒートシンクが求められます。
高性能ゲーミングPCにおけるNVMe SSDの選び方
高性能ゲーミングPCにおいて最適なNVMe SSDを選ぶためのポイントをいくつかご紹介します。
- 容量: プレイしたいゲームの数や容量を考慮して決めます。最近のAAAタイトルは100GBを超えるものも少なくないため、メインドライブとしては1TBまたは2TBが現実的な選択肢となります。Steamなどのゲームライブラリが大きい場合は、より大容量のSSDを検討するか、複数のストレージを組み合わせることも有効です。
- Gen4 vs Gen5:
- コストパフォーマンス重視: 現在の多くのゲームで十分な性能を発揮し、価格もこなれてきたGen4 NVMe SSDが推奨されます。7000MB/sクラスの製品であれば、ほとんどの場面で快適なゲーム体験が得られるでしょう。
- 最高の性能と将来性: DirectStorage対応ゲームの増加や、将来的な技術の進化を見据えるのであれば、Gen5 NVMe SSDは魅力的な選択肢です。ただし、現状の価格、発熱による冷却の必要性、そして体感できるゲーム性能向上効果が限定的である点を理解しておく必要があります。マザーボードがGen5 M.2スロットに対応しているか、適切な冷却が可能かも確認が必要です。
- 耐久性(TBW - Total Bytes Written): SSDには書き込み寿命があり、総書き込み容量(TBW)で示されます。通常の使用ではSSDの寿命を使い切ることは稀ですが、頻繁に大容量のゲームをインストール・アンインストールしたり、動画編集なども行う場合は、TBWの値も考慮すると良いでしょう。ただし、一般的なゲーミング用途であれば、多くの製品のTBWは十分な耐久性を持っています。
- DRAMキャッシュの有無: DRAMキャッシュを持つSSDは、持たないSSD(DRAMレスSSD)に比べて、特に小さなファイルのランダム書き込み性能や、容量が一杯になった時の性能低下が抑制される傾向があります。ゲーム用途では、DRAMキャッシュ搭載モデルの方が安定した性能を発揮しやすいと言えます。
- コントローラー: SSDの性能を決定する重要な要素の一つがコントローラーです。Phison、Samsung、SK Hynixなどが主要なコントローラーメーカーとして知られており、それぞれのコントローラーによって性能や特性が異なります。製品レビューなどを参考に、評価の高いコントローラーを搭載したモデルを選ぶと良いでしょう。
まとめ
ゲーミングPCにおけるストレージ性能は、CPUやGPUと同様にゲーム体験の質を大きく左右する重要な要素です。NVMe SSDは、SATA SSDからさらに進化し、PCIe Gen4、そしてGen5へと帯域を拡大してきました。
現状の多くのゲームでは、PCIe Gen4 x4接続でシーケンシャルリード速度が7000MB/sクラスのNVMe SSDが、価格と性能のバランスにおいて最も推奨される選択肢と言えます。ロード時間短縮やゲーム内ストリーミング性能の向上において、Gen3 SSDからの明確なメリットを提供します。
PCIe Gen5 x4接続のNVMe SSDは、圧倒的な理論性能を持ち、将来的なDirectStorageなどの技術によってゲーム性能に大きな影響を与える可能性を秘めています。しかし、現時点では対応ゲームが少なく、実効性能差が限定的であること、そして適切な冷却が不可欠である点に留意が必要です。最高の性能と将来性を追求するのであれば検討に値しますが、コストパフォーマンスを重視するのであればGen4 SSDが現実的です。
ご自身のプレイスタイル、よくプレイするゲームの種類、そして予算を考慮し、最適な容量と世代のNVMe SSDを選択することで、より快適で没入感のあるゲーミングライフを実現できるでしょう。ストレージはPC全体のボトルネックになりうるパーツであり、適切な投資はゲーム体験の質を確実に向上させます。