ゲーム配信も快適に!高性能と安定性を両立するゲーミングPC構成
はじめに
最新のゲームタイトルを最高の品質設定で楽しむだけでなく、その興奮をリアルタイムで共有するゲーム配信や、思い出として記録するプレイ動画の録画は、多くのゲーマーにとって魅力的な活動となっています。しかし、ゲームプレイと同時にエンコード処理などの負荷がかかるゲーム配信には、通常のゲーミングPC以上に高いパフォーマンスと安定性が求められます。
本稿では、「最新ゲームを快適にプレイしながら、高品質なゲーム配信も同時に行いたい」というニーズに応えるためのPC構成について、パーツ選定のポイントから具体的な構成案までを解説いたします。ゲームプレイと配信の両立に最適なCPU、GPU、メモリ、ストレージなどの選び方を、技術的な側面から掘り下げてご説明します。
ゲーム配信に必要なPCパフォーマンスとは
ゲーム配信は、ゲームの描画処理に加えて、ゲーム画面のキャプチャ、映像・音声のエンコード、そしてネットワークへの送信といった複数の処理を同時に行う必要があります。これらの処理はPCのリソースを大きく消費するため、ゲーム単体をプレイするよりも高いシステム要求が発生します。
特に大きな負荷となるのがエンコード処理です。映像データを圧縮・変換するこのプロセスは、CPUまたはGPUのいずれかで行われます。
- CPUエンコード(x264など): 高品質な映像を生成できる反面、CPUパワーを非常に多く消費します。マルチコア・マルチスレッド性能の高いCPUが不可欠です。
- GPUエンコード(NVIDIA NVENC、AMD VCE/VCNなど): GPUに搭載された専用のハードウェアエンコーダーを使用します。CPUに比べて負荷が少なく、ゲーム性能への影響を最小限に抑えられます。しかし、エンコーダーの世代によって品質や性能が異なります。
快適なゲーム配信環境を構築するには、ゲーム自体の要求スペックを満たす高性能GPUに加え、このエンコード処理を担うCPUまたはGPUエンコーダーの性能、そして両方の処理を滞りなく実行するための十分なメモリ容量と高速なストレージが重要になります。
ゲーム配信を考慮した主要パーツ選定のポイント
CPU:ゲームとエンコードのバランスを考慮
CPUは、ゲームの物理演算やAI、フレームレートの生成、そしてソフトウェアエンコードの場合はエンコード処理を担当します。ゲーム配信では、ゲーム自体の要求に加えて、配信ソフトウェア(OBS Studioなど)の処理も加わるため、高い処理能力が求められます。
- コア数とスレッド数: ゲーム単体であれば4〜6コアでも十分な場合が多いですが、配信を同時に行う場合は、より多くのコア数(8コア以上推奨)とスレッド数がある方が有利です。これにより、ゲーム処理とエンコード処理を効率的に並列実行できます。
- ゲーム性能: ゲームのフレームレートを高く維持するためには、シングルコア性能やキャッシュ性能も重要です。特にAMD Ryzenの3D V-Cache搭載モデルは、ゲーム性能において優れたポテンシャルを発揮します。
- 統合型GPU: Intel CPUの一部のモデルは統合型GPUを搭載しており、これを活用してQuick Sync Videoエンコーダーを使用する選択肢もあります。独立したGPUエンコーダー(NVENCなど)と比較検討の価値があります。
配信方法(CPUエンコードかGPUエンコードか)によってCPUへの要求度合いは変わりますが、いずれの場合も、ゲーム性能を犠牲にしないためには、ある程度上位のモデルを選択するのが望ましいでしょう。
GPU:ゲーム性能とハードウェアエンコーダー性能が鍵
GPUはゲームのグラフィック描画を司る最も重要なパーツの一つですが、ゲーム配信においてはハードウェアエンコーダーの性能も非常に重要です。
- ゲーム性能: プレイしたいゲームタイトル、解像度(フルHD、WQHD、4K)、目標フレームレートに応じて、適切なゲーム性能を持つGPUを選びます。
- ハードウェアエンコーダー: NVIDIA GeForce RTXシリーズに搭載されているNVENC、AMD Radeon RXシリーズに搭載されているVCE/VCNは、CPU負荷をかけずに高品質なエンコードを可能にします。特にNVIDIAのNVENCは長らく高い評価を得ており、最新世代のGPUではさらに品質と性能が向上しています。配信を重視するならば、最新世代のGPUに搭載されたエンコーダー性能を比較検討することをお勧めします。
- VRAM容量: ゲームが高解像度化・高テクスチャ化するにつれて、より多くのVRAMが必要になります。配信ソフトウェアやその他のアプリケーションもVRAMを使用することがあるため、推奨されるVRAM容量よりも余裕を持ったモデルを選ぶと安心です。
多くのケースでは、GPUエンコードを利用するのが最も効率的な配信方法となります。ゲームプレイに必要なグラフィック性能を満たしつつ、信頼性の高いハードウェアエンコーダーを搭載したGPUを選ぶことが、安定した配信には不可欠です。
メモリ:容量と速度の重要性
ゲームと配信ソフトウェアを同時に起動し、スムーズに動作させるためには十分なメモリ容量が必要です。
- 容量: ゲーム単体であれば16GBでも対応可能な場合が多いですが、ゲーム配信を行う場合は、ゲームと配信ソフトウェア(OBS、Discord、ブラウザなど)が同時にメモリを使用するため、最低でも16GB、多くの場合は32GBを推奨します。特に高解像度での配信や、複数のアプリケーションを同時に起動する場合は32GBあると安心です。
- 速度とタイミング: 最新プラットフォームではDDR5メモリが主流となっています。高速なメモリはCPUのパフォーマンスを引き出す上で重要であり、ゲームの最小フレームレート向上にも寄与することがあります。XMP/EXPOプロファイルを適用し、公称スペック通りの速度で動作させる設定も検討します。
ストレージ:高速なNVMe SSDで快適に
ゲームのロード時間の短縮はもちろん、配信中のゲームプレイ録画(ローカル保存)を考慮すると、高速なストレージは非常に有用です。
- NVMe SSD: システムドライブやゲームインストール先として、PCIe Gen4またはGen5接続のNVMe SSDを推奨します。Gen5 SSDは非常に高速ですが、現状のゲームロード時間への影響はGen4からの劇的な変化ではないことも多いため、コストと性能のバランスでGen4 SSDも有力な選択肢となります。
- 録画用ドライブ: 高品質・高ビットレートでのゲーム録画を行う場合、生成されるファイルサイズは大きくなります。システムドライブとは別に、容量の大きいSSDやHDDを録画専用に用意することも検討できます。その場合も、書き込み速度の速いSSDの方が安定して録画できる可能性が高まります。
マザーボード:安定性と拡張性
マザーボードは各パーツを接続する基盤であり、システムの安定性に直結します。
- 対応CPU・メモリ: 選択したCPUとメモリに対応しているか確認します。
- 電源フェーズ: 高負荷が長時間続く配信においては、VRM(Voltage Regulator Module)の電源フェーズがしっかりしているマザーボードを選ぶことで、CPUの性能を安定して引き出し、長寿命化にも繋がります。
- 拡張性: 将来的にキャプチャカードを追加したい場合や、多数の周辺機器を接続する場合に備え、十分なPCIeスロットやUSBポートを備えているか確認します。
- ネットワーク: 有線LANは安定した配信に不可欠です。高速な2.5Gbps LANや、最新のWi-Fi 6E/7に対応したモデルも登場しています。
電源ユニット:余裕のある容量と安定した品質
ゲームと配信を同時に行うPCは、CPUとGPUが同時に高負荷となる時間が長くなります。安定した電力供給のために、電源ユニットの品質と容量は非常に重要です。
- 容量: 選択したCPUとGPUの合計TDP(熱設計電力)を参考に、十分な余裕を持った容量(推奨TDPの1.5倍以上など)の電源ユニットを選びます。特にハイエンドGPUは瞬間的に大きな電力を消費するため、ピーク電力への対応力も重要です。
- 品質と規格: 80 Plus認証の取得や、信頼できるメーカーの製品を選びます。最新のATX 3.0規格に準拠した電源ユニットは、ピーク電力への対応力やGPUへの電力供給安定性が向上しており、最新のハイエンドGPUと組み合わせる場合に有利です。
冷却ソリューション:高性能パーツの熱対策
高性能なCPUやGPUは多くの熱を発生させます。適切な冷却は、パーツの性能を最大限に引き出し、安定稼働させるために不可欠です。
- CPUクーラー: ハイエンドCPUには、付属のクーラーでは冷却能力が不足することが多いです。大型の空冷クーラーや240mm/280mm/360mmクラスの簡易水冷クーラーを検討します。
- PCケースとファン: エアフローの良いPCケースを選び、適切にケースファンを配置することで、PC内部全体の温度を効果的に管理できます。
- GPUクーラー: グラフィックボード自体のクーラー性能も重要です。高性能なGPUほど大型で冷却能力の高いクーラーが搭載されています。
推奨PC構成例(ゲーム配信向け)
以下に、ゲームプレイと配信の両立を目的とした推奨PC構成案をいくつか提示します。これらはあくまで一例であり、予算やプレイするゲーム、配信品質の目標に応じて調整してください。
構成例1:WQHDゲーム+フルHD配信向け(ミドルハイ~ハイエンド)
WQHD解像度でのゲームプレイと、フルHD(1920x1080)解像度での安定したゲーム配信を想定した構成です。多くの人気ゲームタイトルを快適にプレイしつつ、GPUエンコードを活用したスムーズな配信が可能です。
- CPU: Intel Core i7 もしくは AMD Ryzen 7クラス(8コア以上推奨、Ryzen 7 7700X/7800X3D や Core i7-13700K/14700Kなど)
- 選定理由: ゲーム性能と多コア性能のバランスに優れ、GPUエンコード時でも配信ソフトやその他のバックグラウンド処理を安定して実行できます。Ryzen 7 7800X3Dは特にゲーム性能が高い選択肢です。
- GPU: NVIDIA GeForce RTX 4070/4070 SUPER/4080 SUPER または AMD Radeon RX 7800 XT/7900 XT
- 選定理由: WQHDでの快適なゲーム性能を提供し、かつ高品質なハードウェアエンコーダー(NVENCまたはVCE/VCN)を搭載しています。NVENCを重視するならGeForce RTXシリーズが有力です。
- マザーボード: 対応CPUソケット、チップセット(B650/X670またはB760/Z790など)のマザーボード。VRMがしっかりしたモデル。
- メモリ: DDR5-5600以上の32GB (16GBx2)
- 選定理由: ゲームと配信ソフトウェア、OSのメモリ使用量を考慮し、余裕のある32GBを推奨。DDR5の速度もシステム全体の応答性向上に寄与します。
- ストレージ: NVMe SSD 1TB以上 (PCIe Gen4またはGen5) + 任意で追加ストレージ
- 選定理由: OS、ゲーム、配信関連ファイルを格納するメインストレージとして高速なNVMe SSDは必須。録画用には別途SSDやHDDを追加しても良いでしょう。
- 電源ユニット: 750W~850W 80 Plus Gold認証クラス (ATX 3.0対応モデル推奨)
- 選定理由: GPUの高負荷時も安定した電力を供給するため、余裕を持った容量を選定。
- CPUクーラー: 簡易水冷クーラー (240mm以上) または高性能空冷クーラー
- 選定理由: CPUが高負荷になる場面を想定し、十分な冷却能力を持つクーラーを選定。
構成例2:4Kゲーム+高品質配信向け(ハイエンド)
4K解像度でのゲームプレイと、より高ビットレート・高画質な配信を目指すハイエンド構成です。ゲーム性能と配信性能の両方で妥協したくない場合に適しています。
- CPU: Intel Core i9 もしくは AMD Ryzen 9クラス(Ryzen 9 7900X/7950X や Core i9-13900K/14900Kなど)
- 選定理由: 多コア・多スレッド性能が高く、ゲーム性能もトップクラスです。ソフトウェアエンコードを選択する場合や、同時に複数の重い作業を行う場合にも高いパフォーマンスを発揮します。
- GPU: NVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER/4090 または AMD Radeon RX 7900 XTX
- 選定理由: 4Kゲームを快適にプレイするためのトップクラスのグラフィック性能に加え、最新かつ最高品質のハードウェアエンコーダーを搭載しています。特にRTX 4090は圧倒的なゲーム性能とNVENC性能を誇ります。
- マザーボード: 対応CPUソケット、チップセット(X670E/Z790など)の高品質なマザーボード。堅牢なVRMと豊富な拡張性を持つモデル。
- メモリ: DDR5-6000以上の32GBまたは64GB (32GBx2)
- 選定理由: 4Kゲームや高ビットレート配信、複数のアプリケーション使用を想定し、高速かつ大容量のメモリを推奨。
- ストレージ: NVMe SSD 2TB以上 (PCIe Gen4またはGen5) + 高速な録画用SSD
- 選定理由: 大容量化するゲームや高ビットレート録画ファイルに対応するため、メインストレージは2TB以上を推奨。録画専用に別途高速SSDを用意すると、安定した録画が可能になります。
- 電源ユニット: 1000W以上 80 Plus Gold/Platinum認証クラス (ATX 3.0対応モデル推奨)
- 選定理由: ハイエンドCPUとGPUの組み合わせは消費電力が非常に大きくなるため、十分な容量と高い変換効率を持つ電源ユニットが必要です。
- CPUクーラー: 簡易水冷クーラー (360mm以上)
- 選定理由: トップクラスのCPUの性能を最大限に引き出すためには、強力な冷却能力を持つ簡易水冷クーラーが不可欠です。
パフォーマンスを最大化するための追加アドバイス
- ドライバの更新: グラフィックドライバは、ゲームパフォーマンスやハードウェアエンコーダーの安定性に影響します。常に最新版に更新することを推奨します。NVIDIAはゲーム用と配信・クリエイター用のドライバ(Studioドライバ)を提供しているため、用途に合わせて選択します。
- 配信ソフトウェアの設定: OBS Studioなどの配信ソフトウェアでは、使用するエンコーダー(NVENC/VCE/VCNまたはx264)、解像度、フレームレート、ビットレート、プリセットなどの設定が配信品質とPC負荷に大きく影響します。PCのスペックと回線速度に合わせて最適な設定を見つけることが重要です。多くの場合、GPUエンコーダーを使用し、適切なビットレート(TwitchやYouTubeの推奨値など)を設定するのが良いでしょう。
- OSの最適化: Windowsのゲームモードを有効にする、バックグラウンドで動作する不要なアプリケーションを終了させるなど、OSレベルでの最適化もパフォーマンス向上に寄与します。
- UEFI/BIOS設定: メモリのXMP/EXPOプロファイルを有効にする、CPUのCore Performance Boost (AMD) やMulti-Core Enhancement (Intel) の設定を確認するなど、UEFI/BIOS設定によってもパフォーマンスは変動します。安定性を確認しながら設定を調整します。
まとめ
ゲーム配信を快適に行うためのPC構成は、単にゲーム性能が高いだけでなく、ゲームプレイと配信処理という異なる負荷を同時に処理できるバランスと余裕が重要です。特にCPUのコア数、GPUのゲーム性能とハードウェアエンコーダー性能、そして十分なメモリ容量と高速ストレージが、安定した高品質な配信を実現する鍵となります。
本稿で解説したポイントや推奨構成例を参考に、ご自身のプレイスタイルや配信の目標に合わせた最適なPC構成を検討していただければ幸いです。適切なパーツを選び、性能を最大限に引き出す設定を行うことで、ゲームプレイも配信も、より快適で豊かな体験となるでしょう。