ゲーミングPCの隠れた性能を引き出す:BIOS/UEFI設定の重要ポイントと最適化
ゲーミングPCの性能は、搭載するCPUやGPUといった主要パーツによって大きく左右されます。しかし、最新の高性能パーツを組み込んだとしても、OS上での設定だけでなく、PCの基盤となるBIOS/UEFI(Basic Input/Output System / Unified Extensible Firmware Interface)の設定が、そのポテンシャルを最大限に引き出す上で重要な役割を担うことがあります。
本記事では、PC自作経験があり、さらなる性能向上を目指す読者の方々へ向けて、ゲーミングPCのパフォーマンスに影響を与える主要なBIOS/UEFI設定項目と、その最適化について詳しく解説します。基本的な項目から、より踏み込んだメモリタイミングやCPU関連の設定まで、その技術的な意味合いとゲーム性能への影響、そして設定変更における注意点についても言及いたします。
BIOS/UEFIとは何か
BIOSやUEFIは、PC起動時に最初に実行されるファームウェアです。ハードウェアの初期化や診断を行い、その後OSの起動を司る役割を果たします。UEFIはBIOSの後継として登場し、グラフィカルなインターフェースやマウス操作に対応し、より多機能になっています。
UEFI設定画面へは、PC起動直後に特定のキー(DelキーやF2キーが一般的)を押すことでアクセスできます。ここで、CPUやメモリの動作周波数、電圧、各種オンボードデバイスの有効/無効、ブート順序など、ハードウェアに関する根幹的な設定を変更することが可能です。これらの設定の中には、ゲームパフォーマンスに直接的、あるいは間接的に影響するものも含まれます。
設定変更は、PCの安定性に関わるため慎重に行う必要があります。変更を保存して終了する際には、その変更が正しく適用されることを確認し、必要に応じてデフォルト設定に戻す方法も把握しておくことが推奨されます。
ゲーム性能に影響する主要なBIOS/UEFI設定
ゲーミングPCのパフォーマンスに特に影響を与える可能性のあるUEFI設定項目について解説します。
メモリ設定
ゲーミングPCにおいて、CPUの性能を十分に引き出すためには、高速なメモリが不可欠です。UEFI設定では、メモリの動作周波数やタイミングに関する詳細な調整が可能です。
- XMP/EXPOプロファイルの有効化: 多くの高性能メモリには、製造元によって動作検証済みの高速設定プロファイル(Intel向けはXMP、AMD向けはEXPO)が搭載されています。UEFIでこれらのプロファイルを有効化するだけで、メモリを定格以上の周波数で動作させることができます。これは最も基本的かつ効果的なメモリ高速化手段であり、ほとんどの場合、まず最初に確認すべき項目です。
- 手動でのメモリタイミング調整: XMP/EXPOプロファイルを適用した後、さらに性能を追求する場合、メモリタイミングを手動で調整することがあります。メモリタイミングは「CL-tRCD-tRP-tRAS」といった数値群で表され、メモリがコマンドを受け取ってから実際にデータを読み書きするまでの遅延(レイテンシ)を示します。これらの数値を小さく設定することで、メモリの応答速度が向上し、特にCPU性能がボトルネックになりやすいゲームタイトルや、最小フレームレートの向上に繋がる可能性があります。ただし、手動調整はメモリの品質やマザーボードの対応、CPUのメモリコントローラーの能力に依存し、設定が適切でない場合はOSが起動しなくなったり、動作が不安定になったりするリスクが高まります。CL値(CAS Latency)は一般的に最も性能に影響を与えるタイミングとして注目されます。また、Command Rate (CR) も重要で、1N設定は2N設定よりも応答が速くなりますが、安定性の要求が高まります。
- Gear Mode (Intel): Intel製CPUを使用する場合、メモリコントローラーがメモリクロックに対して1:1または1:2の比率で動作する「Gear 1」「Gear 2」モードを選択できる場合があります。Gear 1はメモリクロックとメモリコントローラーが同期するためレイテンシが低くなりますが、高クロックでは安定化が難しくなります。Gear 2はメモリコントローラーが半分の速度で動作するためレイテンシは増加しますが、より高いメモリクロックでの動作が可能になります。どちらがゲーム性能に優れるかは、メモリクロックとレイテンシのバランス、そしてゲームタイトルによって異なります。一般的には、可能な範囲でGear 1かつ高クロックを狙うのが良いとされています。
CPU設定
CPUの動作に関する設定も、ゲームパフォーマンスに影響を与えることがあります。
- 自動オーバークロック機能: マザーボードメーカーが提供するEnhanced Multi-Core Performance (MCE) や、AMD RyzenプロセッサーのPrecision Boost Overdrive (PBO) のような自動オーバークロック機能は、CPUがその能力の範囲内でより高いクロックで動作することを可能にします。これらの機能を有効化することで、特にマルチコア性能が要求されるタスクや、シングルコア性能が重要となるゲームの両方で性能向上が期待できます。ただし、消費電力や発熱が増加するため、適切な冷却能力が必要です。
- C-Statesなどの省電力設定: CPUはアイドル時に消費電力を抑えるために様々なC-State(Core State)に入ります。これらの省電力機能を有効にしておくことは通常推奨されますが、一部のゲームやリアルタイム性が重要なアプリケーションにおいて、C-Stateからの復帰時のわずかな遅延がスタッタリングの原因となる可能性が指摘されることもあります。多くの場合はデフォルト設定で問題ありませんが、特定の状況下で性能の安定性を追求する際には検討項目となり得ます。
- Intel SpeedStep Technologyなど: CPUの負荷に応じてクロックを動的に変更する技術です。これも通常は有効にしておくべき設定ですが、固定クロックで動作させたい場合は無効化を検討することもあります。ただし、現代のCPUではこれらの技術は性能と消費電力のバランスを最適化するために重要であり、安易な無効化は推奨されません。
PCIe設定
- Resizable BAR / Smart Access Memory (SAM): GPUがCPUのVRAM全体に直接アクセスできるようにする技術です。対応するCPU、マザーボード、GPUの組み合わせでUEFI設定から有効化することで、一部ゲームタイトルでフレームレートが向上します。これはパフォーマンス最適化において非常に効果的な設定の一つです。
- PCIe Gen設定: マザーボードのPCIeスロットやM.2スロットは、通常Auto設定で接続されたデバイスに合わせて最適な世代(Gen3, Gen4, Gen5)でリンクを確立します。特別な理由がない限りAutoで問題ありませんが、特定のトラブルシューティングや、特定のデバイス(例: PCIe Gen5 SSD)を確実にGen5で動作させたい場合に、手動で世代を指定することがあります。
その他
- ファン制御設定: CPUクーラーやケースファンの回転速度は、温度センサーの読み取りに基づいてUEFIで細かく設定できます。ゲーム中の温度を適切に保つことは、CPUやGPUのサーマルスロットリング(熱による性能低下)を防ぎ、安定したパフォーマンスを維持するために非常に重要です。性能重視であれば、少々騒音が増えても積極的に冷却する設定を選ぶことができます。
- 統合グラフィックスの無効化: 高性能なディスクリートGPU(dGPU)を使用する場合、CPUに内蔵されている統合グラフィックス機能(iGPU)は通常必要ありません。UEFI設定でiGPUを無効化することで、システムリソースの競合を防ぎ、ごくわずかですが性能や安定性に寄与する可能性があります。
具体的な最適化ステップと注意点
- 現状の確認: まず、現在のUEFI設定がどうなっているかを確認します。特にメモリのXMP/EXPOが有効になっているか、ファン設定が適切かなどをチェックします。
- 目的の明確化: 何を改善したいのか(例: 全体的なフレームレート向上、最小フレームレートの安定化、ロード時間の短縮)を明確にします。
- 一度に一つの設定変更: 特に手動でのメモリタイミングやCPU電圧調整など、リスクの高い設定変更を行う際は、一度に一つの項目だけを変更し、その都度OSを起動して安定性や性能の変化を確認することを強く推奨します。複数の設定を同時に変更すると、問題が発生した場合に原因の特定が困難になります。
- 安定性のテスト: 設定変更後は、ゲームプレイや、Prime95 (CPUストレステスト), MemTest86 (メモリテスト), 3DMark (総合ベンチマーク) などのツールを使用して、システムが安定して動作するかを十分にテストします。不安定な設定は、最悪の場合データ損失やハードウェアの故障に繋がる可能性もゼロではありません。
- 効果の測定: 設定変更によるゲーム性能の変化を測定します。ゲーム内ベンチマーク機能や、MSI Afterburnerのようなツールを使ってフレームレート(平均、最小、最大)やフレームタイムを記録し、変更前と比較します。
- 元の設定に戻す準備: 設定変更によってシステムが起動しなくなった場合のために、UEFI設定を初期化する方法(マザーボード上のClear CMOSボタンを押す、特定のピンをショートさせる、CMOSバッテリーを取り外すなど)を事前に確認しておきます。
UEFIの設定項目やレイアウトは、マザーボードのメーカーやモデル、UEFIのバージョンによって大きく異なります。設定変更を行う際は、必ず使用しているマザーボードのマニュアルを参照してください。
まとめ
BIOS/UEFI設定は、PCの基盤を制御する重要な部分であり、特にメモリタイミングやCPU関連の詳細設定は、ゲーミングPCの潜在能力を引き出すための高度なチューニング手段となります。XMP/EXPOプロファイルの有効化は多くの環境で容易かつ効果的な設定ですが、さらに踏み込んだ手動調整は、適切な知識と慎重な手順が求められます。
これらの設定を適切に最適化することで、フレームレートの向上やスタッタリングの低減といったゲームパフォーマンスの改善が期待できます。しかし、設定変更には不安定化や最悪の場合起動不能といったリスクも伴うため、バックアップの準備と、変更内容を一つずつテストしながら進める慎重な姿勢が不可欠です。
ご自身のPC環境と目標に応じて、これらのBIOS/UEFI設定を理解し、適切に活用することで、より快適なゲーム体験を実現できるでしょう。